「名物がない」と揶揄(やゆ)されることもある埼玉県。だが、「草加せんべい」の名を知らない人は少ないだろう。熊谷の五家宝(ごかぼう)、川越の芋菓子と並ぶ県の三大銘菓の一つだ。「銘菓を知らずに埼玉は語れない!」と思い立ち、江戸時代に旧日光街道2番目の宿場として栄えた草加市を訪ね、そのルーツを探ってきた。
■おせんのお煎餅
江戸時代、草加宿で「おせん」という女性が旅人を相手に団子を売っていた。おせんは、売れ残りの団子を捨てなければならないことに悩んでいたが、ある日、茶屋を訪れた侍が「潰して天日で乾かし、焼き餅として売ればいい」という。助言を基におせんが焼き餅を売ったところ、評判になり街道名物に-。
いかにも夢の広がるエピソードだが、実はこれ、昭和時代に創作された物語。実際は、保存用にコメを団子状にして乾かしたものを茶屋などで販売したところ、自然と普及していった-というのが事実に近いらしい。大正2年に旧陸軍が川越で大演習を行った際、県の名産品として天皇陛下に献上されたことを機に、全国に「草加せんべい」の名が広まった。
■煎餅のテーマパーク
平成20年5月にオープンした煎餅のテーマパーク、山香(やまこう)煎餅本舗「草加せんべいの庭」では年中無休、予約不要(10人以上は要予約)で煎餅の手焼き体験ができる。
「3秒に1回ひっくり返して」「ぷくぷくしたら押し瓦で押して」。係の女性が丁寧に作り方を教えてくれる。わずか2分ほどで焼き上がるため、写真を撮っていたら案の定、少し焦げた。それでも、焼きたての煎餅は格別。化学調味料不使用の特製タレを付けて味わえば、米の甘みがふんわりと口に広がった。
川口市から家族6人で訪れた姫野達也さん(41)は「ふらっと来て体験できるのが魅力。煎餅作りがこんなに忙しいとは思わなかった」
同社では非常食用の草加せんべいを開発中。きっかけは、東日本大震災時に宮城県内の取引先から受けた一本の電話だった。「全く食べ物がない。煎餅を送ってほしい」。社長の河野文寿さん(42)は「日持ちがよくて、そのまま味わえる煎餅は非常食に向いている」と考えた。通常3~6カ月の賞味期限を3年に延ばす工夫をし、今月から予約を受け付ける予定という。
■松並木でまったり
草加せんべいが生まれた場所にも足を運んでみた。「おくのほそ道の風景地」として今年3月、国の名勝に指定された草加松原遊歩道だ。綾瀬川沿いに約1・5キロの松並木が広がる。都市化に伴い、松は昭和40年ごろに約260本まで減少。その後、市民団体の保護活動などで少しずつ蘇り、現在は東京スカイツリーの高さにちなんだ634本が植えられている。
まったりとした空気に癒やされ、遊歩道のベンチで自分で焼いた煎餅をひとかじり。名店の煎餅も捨てがたいが、焦げた煎餅にはまた、別のおいしさがあふれていた。(川峯千尋)
草加せんべいの庭 埼玉県草加市金明町790-2。手焼き体験は2枚で324円。駐車場16台。年中無休。午前10時~午後7時。【問】草加せんべいの庭(電)048・942・1000。
草加松原 東武伊勢崎線松原団地駅東口から正面大通りを東へ進み、県道足立越谷線沿いの遊歩道。駅から徒歩5分。
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